2015年9月30日水曜日

[002.1] sep

9月のリスニングから
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Slow Blade: guest mix by Stephan Mathieu
listen #23 & #26
Maxwell August CroyとRené Margraffがホストを務める、Berlin Community Radioのプログラム「Slow Blade」に、同国の電子音響アーティストStephan Mathieu(ステファン・マシュー)が提供したゲストミックス。7月7日放送の第23回と、9月1日放送の第26回。

Gigi Masin - Wind (The Bear On The Moon Records, 1986/2015)
listen The Wind Song
失恋後に過ごしたサルデーニャ島の休日。哀しみと自然の美しさ。その時の感情と記憶をシンプルにアウトプットするために、安価なシンセが重要な手助けとなったと語る。インディペンデントにこだわり、しかし2度の挫折。3度目のチャレンジでようやく叶ったというBear On The Moonのカタログ3番。そのため1、2番は存在せず。ジャケットの印刷直前にタイトル決定を迫られたMasinは、Wind Of Changeの意味を込めてWindと名付けた。

Richard Lainhart - These Last Days (Periodic Music, 1987)
2011年に亡くなったニューヨークの作曲家Richard Lainhart(リチャード・レインハート)。電子音楽の作曲をはじめたのは70年代初頭。それから長い間ソロ作がリリースされなかったのはどうしてだろうと疑問に思う。「Ten Thousand Shades Of Blue」や「White Night」でミニマル/ドローンの重要作家として知られたのは2000年代に入ってから。「These Last Days」はPeriodic Musicから87年にリリースされたCDで、発売後すぐに売り切れたという。シンセ+デジタルディレイにリアルタイムでエディット/オーバーダブを重ねた煌めく反復音楽。

Another Fine Day - Life Before Land (Beyond, 1994)
木陰で沈思黙考するグリーン、または「緑の思考」と解釈できる#4を、何度も繰り返し。70年代末のポストパンク・グループでの活動、80年代のコンピュータを使った宅録実験期を経て、The Orbのアルバムに貢献したTom Greenのソロ・プロジェクトAnother Fine Day(アナザー・ファイン・デイ)の初作。近年は映画のサウンドトラックをはじめ、病院でのインスタレーション、太極拳のための音楽などを手掛けている。全編通じて素晴らしい、ヒューマニスティックなアンビエント/ダウンテンポ・アルバム。

Trans-4M - Sublunar Oracles (Buzz, 1992)
listen Surfacing
アンビエントとニューエイジがほぼ同義まで接近した時期。アンビエントは思想性をともなって、「環境」を形成するだけではなくある種の「精神状態」にシフトするためのプログラム/インストーラーとして機能していたのではと思う(その反動として、後の純粋な音響主義へ向かう)。デトロイト・テクノの良作を多数生んだベルギーのBuzzからリリースされたDimitri Van ElsenとStefan van ElsenのプロジェクトTrans-4M(トランスフォーム)の92年作。メンタルと環境を連動させる仮想実験に宇宙技術を導入したハイテックなスピリチュアル・プログラム。深層意識が表層へ浮上するようなA3-A4の流れに特に惹かれます。youtube音源のアップローダーはMixmaster Morrisだった。

2015年9月27日日曜日

[002] Mike Cooper - Fratello Mare


Label: Room40
Catalog#: RM 462LP
Format: Vinyl, LP, Album
Country: Australia
Released: 2015
DISCOGS

A1 On Passing Bamboo 2:22

A2 A House in Bali 2:24
A3 Summer Without Waves 3:06
A4 Street Beneath the Beach 2:38
A5 Of Palm and Reef 2:07
A6 Fratello Mare 2:06
B1 Notes from My Pacific Log 4:08
B2 Secret Mexican Beach 3:20
B3 A Cinnamon Peeler 3:13
B4 New Gamelan 3:02
B5 Complicated Sky 2:31

高らかに歌う鳥たち、風に揺れる椰子の葉、やさしく打ち寄せる波。そんな南国情緒にどっぷりと浸かる観光客視点の享楽を、路頭に迷うストレンジャーの不安や悪酔いに反転化する、ユルく着心地の悪いエキゾチック・ミュージックのシャドー。60年代から即興/ブルース/フォークの界隈で活動する、イギリス・レディング出身のスライドギター名手Mike Cooper(マイク・クーパー)が、ポリネシア諸島を舞台にしたFolco Quilici(フォルコ・クイリチ)監督の同名映画にインスパイアされて制作したという2015年作品。


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2015年9月26日土曜日

[001] Roger Doyle - Time Machine


Label: Heresy Records
Catalog#: Heresy 017
Format: CD, Album
Country: Ireland
Released: 2015
DISCOGS

1 Chalant 9:15

2 Voices Of Parents 5:14
3 Back In Time 4:12
4 Jonathan Prelude 2:21
5 Coat-hanger Kisses 9:58
6 Wassane 10:27
7 Back From Hospital 2:33
8 It's Very Serious 3:09
9 Salomé At The Gate 10:14
10 Birth 3:55
11 Departure 10:37

1949年ダブリン生まれ。「アイリッシュ・エレクトロニカの祖」と称えられる作曲家Roger Doyle(ロジャー・ドイル)。9歳で作曲をはじめ、アイルランド王立音楽学校在籍時に管弦楽に取り組むかたわら、ジャズ/ロックの打楽器奏者として活動。ユトレヒトのソノロジー研究所やフィンランド放送実験音楽スタジオで電子音響を攻究し、同時期にエレクトロアコースティック曲「Fin-estra」、その手法に室内楽や民族音楽を混成させた奇態な初期作「Oizzo No」「Thalia」などを制作。80年代に入ると、女優Olwen Fouéré(オルウェン・フエレ)と音楽劇団Operating Theatreを組織し、戯曲や映画のためのスコアなど、劇場を中心としたマルチメディアな活動を展開。その後もソロでは、ピアノを中心とした小編成のアンサンブルやシンセの多重録音で、10年の歳月を費やした大作「Babel」をはじめ、古い時代のシアターを夢想するような薄暗いノスタルジアと実験性が交差する「耳のための映画」を創作しています。本作「Time Machine」は、御齢66歳のDoyleが、オペラ・ディレクターEric Fraad主宰のレーベルHeresyから発表した2015年作。80年代の終わり、ダブリンのメリオンスクエアの最上階でボヘミアン的生活を送っていたというDoyleの自室にあった留守番電話、そこに残されていた家族や友人たちのメッセージ、さらに本作制作中に生まれた孫と息子パーヴォへ送った電報をめぐり、過去に感じていた作曲家の孤独感、そして未来に目を向けはじめた現在へ至る、人生の回想録的な眼差しをオーバーラップさせながら、ひとつの劇として組み上げたもの。元々はPsychonavigationからリリースした「Chalant - Memento Mori」(メメント・モリは「死を想え/死を記憶せよ」というラテン語の警句)を、曲を少なくし、タイトル/ビジュアルとも「音の記憶性=タイムマシン」を前面に発展させた内容ですが、Doyleのアルバムには古いモチーフが度々現れたり、過去のアルバムの構成に手を加え、作曲年の隔たりを越えた様々なアイデアを組み合わせたりと、作品の形を変えることをいとわずに更新/派生させてゆくスタンスをとられているようです。


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曲中のメッセージについて(CDブックレットより)

2) 1989年の元日、私はブルージュ実験音楽集会からフランス革命200周年祝典へ向けた32人の作曲家のひとりに委任された。
3) 息子パーヴォが10か11歳の時にメッセージを残してくれた。
5) 80年代の終わり、私はメリオンスクエアの同じ建物に住んでいたアナウンサー/ジャーナリスト、ジョナサン・フィルビン・ボウマンと親しい仲になった。2000年、悲しいことに彼は事故で31歳でこの世を去った。この即興的な「意識の流れ」は89年、彼が20歳だったときのもの。
6) 孫のオイシンのために2011年に作曲。
7) 喘息のため入院することになった87年5月、女優オルウェン・フエレ、友人のハイケ・ハイリヒ、トリニティ・カレッジの論理学/哲学者ロス・スケルプトン、息子パーヴォがお見舞いのメッセージを残してくれた。彼らは私に禁煙することを決意させた。
8) 発信者不明だった。1年後、それが友人のダニエル・フィギスとヴィンセント・ドハーティによる悪戯だと分かるまで恐ろしく、とても気がかりだった。
9) これらのメッセージは主に88年の4月19日、ダブリン・ゲート劇場での「サロメ」(オスカー・ワイルドの戯曲)公演初日を終えた朝に録音された。オルウェン・フエレは「サロメ」を演じ、その監督を務めたのがスティーヴン・バーコフだった。私はその2時間にわたる付帯音楽を作曲し、舞台でライブ演奏を行った。
10) 息子パーヴォと私。2011年1月28日、祖父になったことを告げるコンピュータ合成音声(Eircom: アイルランドの通信会社)。

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2015年9月12日土曜日

[000] Ptaki - Two mixes


ワルシャワを拠点にThe Phantom名義で活動するBartosz KruczynskipとJaromirのDJデュオ・ユニットPtaki(プタキ: 鳥の意)。2015年8月「Baltic Beat」はポリッシュ・ジャズ/アンビエント/ニューエイジのセレクション。もうひとつはTest Pressingのmixシリーズとして2014年5月に公開されたメディテーティヴmix。どちらもこの夏よく聴いていたミックスです。


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Ptaki
Facebook / soundcloud / mixcloud

2015年9月11日金曜日

[999] Julius - Lullaby For The Fishes


Label: Tochnit Aleph
Catalog#: TA133
Format: Vinyl, LP, Album
Country: Germany
Released: 2015 (1985)
DISCOGS

A1 Musiklinie - Konzert Für Einen Strand 10:09

A2 Lullaby For The Fishes 0:53
A3 Lied Für Einen Morgen 6:25
A4 Lullaby For The Fishes 0:59
A5 Altes Klavierkonzert (Für Die Weser) 8:07
B1 Zwergenmusik 14:46
B2 Lullaby For The Fishes 1:30
B3 Minutenblues 9:36

"ROLF JULIUS was the archetypal “sound artist“. He painted with sound, he colored with pitch, and his work demands the attention and open-mindedness of those who embrace modern art. He collected found sounds, and mixed them with prerecorded single tone notes which were then, electronically modified and filtered through tiny loudspeakers, transformed into music. Depending on the surface texture where the loudspeaker has been placed - wall, floor or outdoors - these objects resonate and “breathe“ sound. His music is a mixture of all these sounds; a carefully calculated and conceived creation. He sculpted sound to define space, creating a musical environment where subtle changes occur.

JULIUS was born in Wilhelmshaven, West Germany, in 1939 and died in Berlin in 2011. He studied visual arts at the Academy of Fine Arts in Berlin where his first installations involved the use of photographs. Later, after being inspired by the work of John Cage, and more directly European contemporary music (eg: classical, electronic and jazz), JULIUS became increasingly interested in environmental acoustics and sound textures. He attempted to fuse space with sound by combining pulsating textures with the room’s acoustics, similar to the work of David Behrman, Alvin Lucier and David Tudor. JULIUS’ environments also contain a visual element, where the observer / participant is able to enter and leave the musical environment as one chooses.
JULIUS exhibited his pieces throughout Europe and the United States. Paradoxically he is internationally recognized as a visual artist, but considered himself a musician. His work embodies the truest elements of “sound art“, having the ability to create images with sound." (Brooke Wentz)

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2015年9月10日木曜日

[998] Marconi Union - Departures


Label: Chemical Tapes
Catalog#: MAL
Format: Cassette, Album
Country: UK
Released: 2015
DISCOGS

A1 Still 4:48

A2 Departure 4:54
A3 Aftermath 4:56
B1 Loss 7:20
B2 Fading 7:16

Brian Enoの「Thursday Afternoon」が、時を静止させて(またはスローモーションで)、身の回りの何気ない造形美やテクスチュアに注視させるとしたら、Harold Buddの「鏡面界」が、水面に揺らぐ反転世界や夢の中で見た夢、現実と幽冥の間の無色透明なエキゾへ誘うものとしたら、本作はその正統を継ぐ作品。Ochreから2003年にデビュー、その後All SaintsやJust Musicなどから作品をリリースし、近年ではヒーリング/音響療法のための音楽も手掛けるマンチェスターの3人組Marconi Union(マルコーニ・ユニオン)、2015年の最新作。